そもそも私の名前は姫な訳がないし、なにより可愛いとは無縁の容姿と性格を備えているというのに。


それこそロボット男の普段の態度のようで癪だが、ハァ…と盛大に嫌味な溜め息を吐き出したくもなるわ。



「どなたですか?」

高級料亭に不似合いすぎる鬱鬱しい空気を切り裂いたのは、これまた無骨すぎる偽の婚約者な男の声音。



ハグされている状況に変化がないことを諦めて視線を上げれば、合致した真っ黒な瞳はどこか面倒そうに映った。


確かにロボット男からすれば、訳が分からないうえムダが大嫌いであるからその表情にも納得だ。



やはり彼にとってとことん興味ゼロ――その位置づけだと、頭で分かっていても心は堪えるらしい…。



「ええと、彼は」

「彼!?ま、まさか姫…、彼氏なのか!?」

「…、」

振り切るようにして口を開けば、ようやくハグを止めた喚く男を紹介するつもりだったが。



何をどう勘違いしたのだろうか、両肩に手を置かれてショックに慄かれるとは…。