いやいや私こそ、今すぐダッシュでリターンさせて貰いたい。

但しその前に消え去った女将に先を越されて項垂れれば、ククッと小さく笑った男に苛つきを覚える。



「どうやら、知り合いのようですね」

「あ、はは…、かもですねー…」

「それは楽しみです」

「・・・」

ああいやだ、いやだいやだ!どうしてこのお店を選んだのか、この空気の読めないロボット男は…!



「――ひ、姫ぇえええ!」

しかし息つく間もなく、ガクンと肩を大きく落とす前に木霊した声は脱力感でいっぱいにする威力を備えていた。



綺麗すぎるほどピカピカに磨かれた床にも構わず、うるさくドタドタ走って現れた人物に落胆するばかり。


ここは眩暈でも起こした方が平和に過ぎるなと、なぜだか額に手を当てて現実逃避を図ってみる。


だが、それこそ油断大敵だと忘れていた。無防備で居た身体を不意に、ギュッと強力すぎる腕を回されてしまう。


ガッシリした体躯にバカ力は相変わらず――と、すぐに思考変更した私も私だろう。



「ああ姫ぇええ!会いたかったー」

「その呼び方、止めて」

「姫はあれからちっとも会いに来ないし…、どれだけ心配したと思ってるんだ?」

「姫じゃないから」

「ああ、ますます可愛くなって大変だ」

こちらの気も構わず、更にギュウギュウ力を入れながら言う彼は、やはり昔と変わらずまったく人の話を聞かない男だ。