そうだとしても。ここで涙を流せば今度は“女の立場”を利用した、ズルイ女になり下がるのは明白だった。


これ以上の痛みを感じたくないと、社長から寄せられる問い掛けに小さくフルフル頭を振ることが精一杯。



元彼のヒロユキに騙された時は、惨めすぎた嫌な思いを断ち切ることに必死で、とにかく現実から逃げて気持ちを封印したに等しい。


あれから早数ヶ月…、今の私はロボット男と離れたくないがために、ただ押し黙って応じないだけ。


ほとほと成長していない自身に嫌気がさす。おばあちゃんからの贈り物である、名古屋友禅の優美さを損なわせて申し訳なく思えるほどだ。


ああ今ならばよく分かるし、素直に認められる。

歌舞伎役者として大成出来なかったのは、省みないことが一番の理由だった――



「いい加減にして下さい!
俺が彼女を選んだだけの話で、そもそも朱莉はただの従兄妹――なにか違いますか?」


口を開く気力を失い、半ば俯き加減でいた私の肩を引き寄せると、珍しく響き渡るほど声を荒げたのはロボット男。


どうやらその声音に驚いたのは私だけでなく、向かい側の社長も眉を潜めて物珍しそうな眼差しを向けた。



「彗星、なぜそこまで」


「貴方には、ご理解頂けなくて結構ですよ。
私は怜葉さんと婚約した――正式にその報告に来ただけのこと。これ以上の話は無用ですね、では失礼します」


今度は先ほどの社長以上に、口を挟ませない冷たい声と瞳を見せればドアへと私を誘いながら向かって行く彼。