無言を貫く両者の考えはまったく窺い知れないけども、この不穏な空気に逃げたいと思うのは悪いクセの再発だ。


それでも平静を装っているのは、幼き頃は一端の歌舞伎役者として舞台に立っていたという、小さなプライドによるもの。


ここはただ穏便に過ごさねばならないと。ズキズキとした痛みに素知らぬフリをした。



「顔はお見せしましたし、これでもう…」

「怜葉さん、ひとつ聞いても良いかな」

「はっ、はい!何でしょうか?」

重苦しさを断ち切ろうとするロボット男の声をあっさりと制し、ビクリと跳ねた私へ真っ黒な眼を向けて来る社長。


先ほどより幾分柔和な顔つきにも見えるが、このゾクりとする威圧感が消え去ることはほぼ無いのであろう。


「今このタイミングで、彗星と婚約して幸せかい?」

「え、えと…。社長、恐れ入りますが、どういう意味でしょうか」

ロボット男よりハスキーな声音で尋ねられた問い掛けに、思わず首を捻りそうになったものの。


クックッと冷淡に笑った社長にそれは抑え、言葉少なく無表情で続きを促すこととした。



「此方で君について調べさせた限り…――どうやら賢い女性にも拘らず、生きることが下手に感じたが?
ああ、もちろん勉学の優劣という意味でなく、世情に際し無知である為に損するという意味であるから誤解しないで欲しい。

君のご家庭は有名一門だったね…。そんな名の通ったご実家を通じて“間接的に”好感を得るより、あいにく私は着実かつ迅速に利益を求めるタイプだ。

すなわち今回の婚約騒動のお陰で、君のお宅のゴタゴタを片付ける手間が生じて迷惑千万なんだよ。
さっき会ったと思うが、姪である朱莉の実家なら…私の求める物が“すぐ”手に入れられる。
あまりに無計画で突飛すぎた彗星の行動に怒ったものの、珍しくどうにも譲らない――賢い君なら、これで言っている意味が分かるね?」


その抑揚のない言い回しは、最後まで口を挟ませることなく。

すべてを言い終えた瞬間に改めて鋭い眼差しを向け、勝ち誇ったように口元を緩めたのは凄い…。