決して立ち止まることなく進んだ先でピタリ止まれば、目の前を覆うホワイト基調の重厚なドアをノックした男。


その奥からの返事も聞かずに大きくドアを開け放つと、重厚な机の向こうで執務をしている人の姿を捉えた。



「連れて来ましたよ。あなたのご希望通りに」


「――彗星、10分の遅刻だ」

顔立ちから察する必要もないほどソックリな男2人はまさに親子。
だとしても何なの、この一気に蔓延する冷たい空気は…?



此処でようやく離れた手にホッとしながら、ひとまず着ていた羽織を脱ぐことにする。


本来であればもっと先の場面で脱ぐ筈だったが、どれもでタイミングを逸していた。


息つく間もなく前方から向けられた眼はやけに真っ黒すぎて、デスクと距離があろうとも萎縮したくなる。



「それは失礼しました。軒先で何故か、居る筈のない朱莉に捉まりましてね。
怜葉さん、こちらは父です――まぁ貴方は知っているかと」


その私の心中など露とも気にせず、先ほどの件を淡々と述べてくださる勝手なロボット男。


さらには、あまりに簡単な紹介で言葉を終えないで欲しい。このあとの繋ぎはどうなる?



「初めまして、怜葉さん。
彗星が何かと世話になっているようだね」

ブラウンのプレジデントデスクから立つことなく、机上に無表情のまま両肘をついている人こそ。


多忙すぎるゆえ、社員でも滅多にお目にかかれない高階コーポの現社長。すなわちロボット男のお父さまである。