無言を貫くお手伝いさんからすかさずスリッパが出されたため、それには辛うじて足を通せたものの。


何にも構わず半ば強引にして、スタスタと先を歩いていくロボット男のなすがまま。


コンパスの違う男の引きつけにより中へと進んで行けば、ゴッホなどそうそうたる絵画が飾られている壁面には唖然としつつ。


着物を着ているから必然と小刻みに忙しない歩みで、すでに困惑気味のコチラを考慮しない男は凄い。



「ちょっと待って、彗星!」

「邪魔しないでくれ」

背後から声を張ってついて来る彼女は、艶々なシルク地にペールブルー色のワンピース姿が如何にも可愛らしい。


お嬢様のイメージそのものである、フェミニンな本命に対しても冷酷な言葉を発するのだから、さすがの専務だと恐れ入るしかないわ。



「ヒドイ男ね」

「そう思ってくれて結構」

私を通り越えての討論は、お互いに一歩も譲らないけども。


いやいや、明らかに大切な彼女がお怒りモードへ突入しているというのに、ロボット男は此方を優先して大丈夫だろうか?



ああ、そういえば。この男がいま必要とするのは、“偽の女”であるから私で良かったのか――



変わらない速度で歩いて行く最中そう結論に至れば、チクチク煩わしい心の痛みを感じてしまう。


この構図に不要すぎる立場の自分が滑稽であり、ただ無言のまま静かに手を引かれていた。