差し伸べられた手をはね退けるほど、当時は余裕も負けん気も無かったし諦めようか?


「それで、ソッチの件は片付いたんでしょ?」

「…それはもう、綺麗サッパリ」

カップを片手に尋ねて来る由梨に対し、大きな溜め息を吐き出しながら頷いてみせた。


「良かったじゃない。専務ってやっぱり抜かり無いわね」

「…ホントにね、策士だよ」

彼女が喜んでくれるのは感謝だとしても、最近の激動の毎日に心は置いてけぼりだ…。




「――頼む…怜葉、連帯保証人になって欲しい。
海外で会社を立ち上げるには、まだまだ出資金やその後の運転資金が足りないんだ。
もちろん保証人になって貰うだけだし…俺たち、いずれ結婚するだろ?お願いだ!」

付き合い始めて半年だった大好きな恋人に頼まれたのが、そもそもの始まりだった。


大学時代の友人繋がりのコンパで知り合ったその人は、私よりも4歳上の30歳で。
穏やかでいてユーモアに富んだ性格と、自身で企業を目指す姿勢に尊敬していたし。
私だってそろそろ年齢的に…と、出会って間もないけど彼との将来を意識していた。


「…ノリユキ、いいよ。私も協力するから頑張って?」

「あ、ありがとう!絶対、会社上手くいかせるよ…」

「・・・うん」

そんな恋人から将来をチラつかされて、未来が拓ける甘い言葉を頂いてしまったら。


誰だってソレがどれほど危険で浅はかな行動だったか、正確な判断を出来る筈が無いと思う。