「今、練習の帰り」
「そ……か。はぁ~、ビックリし過ぎて息止まった」
「あははっ! 悪い!」
胸を撫で下ろす私の目の前で、彼はまた楽しそうに屈託ない笑顔を浮かべる。
「いつもこんな時間まで練習してるの?」
スマホの時計を見ると、もう夜の9時を回っていた。
「日によっても違うけど、いつも8時くらいまではやってるかな」
「じゃー、今日は随分遅いんだね」
「ああ、でも俺はいつもこんなもん。練習終わった後、自主練してるから」
「……自主練?」
思いがけないその言葉に、目を瞬かせながら小首をかしげる私を見て、フッと笑った彼。
「おー。全体練習だと、ボール触れる時間って限られてるし。できるだけ時間ギリギリまではやるようにしてんだ」
「……」
思わず、その顔をじっと凝視してしまう。
「ん?」
「いや、偉いなぁと思って」
だって、もうあんなに上手いのに。
それで思い出したのは、美月に借りた雑誌に載っていた、彼のこと。
「あのね、」
「んー?」
「私、妹がいるの」
「妹?」
突然話題を変えた私に、少し驚いた様子で、目を瞬かせる。
「そう。宮崎航太の1歳上なんだけど、サッカー好きでさ。……って言っても、ミーハーゴコロ全開の残念な子なんだけどね」
「何だそれ」
私の言葉に、彼が肩を震わせて“くくくっ”と笑う。
こうして見ると、その笑顔にはまだあどけなさが残っているのに。
「でね、妹が持ってるサッカーの雑誌見たの」
「……」
「宮崎航太、いっぱい載ってて……。すごい人だったんだなぁって思った」
その真っ直ぐな視線から逃げるように、私は思わず俯いて、ポツリとそんな言葉を落とした。
「知らなくて、申し訳なかったなぁって……」
きっとそんなことを気にするタイプではないと思うけれど、やっぱり失礼な反応だったような気がして、そう告げる。
だけどわずかな沈黙の後、宮崎航太が少し困ったように笑いながら、口を開いて言ったんだ。
「俺は、別にすごくないよ」
「え?」
「俺よりも、もっと上手い選手なんてその辺にいっぱいいるし。世界に出たら、それこそ数えきれないくらい」
「……」
「でもって、雑誌に載ってるのは“サッカー選手”の俺で……」
そこで一旦言葉を止め、小さく息を吐き出しながら、下を向いてしまった。

