「――っ!!」
「いい席だったでしょう? あそこは特等席ですから」
私の目から見える距離まで近付いて、にっこり笑ったその男の人。
あの人だ……。
私を席まで案内してくれた、スーツの男!!
「あなたは……?」
状況が把握出来ないまま口にした言葉が僅かに掠れていることに気が付いて、ゴクリと唾を飲み込み返事を待つ。
「俺? 俺はこいつの兄だよ」
「お……兄さん?」
「えぇ。宮崎 翔太《みやざき しょうた》です。佐々木様、以後お見知り置きを」
席まで案内してくれた時のように軽く頭を下げ、丁寧に自己紹介をしてきた宮崎翔太に、
「その気持ちわりー喋り方すんのやめろよ……」
怒りが治まったのか、何を言っても無駄だと諦めたのか、大人しくなった宮崎航太が近寄る。
えぇーっと!?
宮崎航太のお兄さんが宮崎翔太で、スーツの男が宮崎翔太で、それが宮崎航太のお兄さんで……?
思いっきり混乱する私をよそに、2人の会話はまだ続く。
「仕事なんだから、しょーがねぇじゃん」
「今は仕事中じゃねーだろ! 普通に喋れよ!!」
「あ~? だって、美青ちゃんはお客さんだし」
「そうだけど……って、“美青ちゃん”とか、馴れ馴れしく呼んでんじゃねーよ!!」
「おい、航太ぁ~。男のジェラシーほど鬱陶しいものはねぇぞ。ねー、美青ちゃん?」
「えぇっっ!?」
いきなり話を振られたことに――それに、今までの“スーツの男”の時からは想像できないくらいの変貌ぶりに、思いっきり動揺する私。
「もーいいから、兄貴!! 美青サン巻き込むなよ!!」
「何だよつまんねーなぁ。いいじゃんかよー、ちょっとくらい」
2人の会話についていけず、会話に合わせて視線を行ったり来たりさせることしか出来ない自分が情けない。

