きせき


それから特に会話を交わすわけでもなく、彼は私の手を引いて歩いて、スタジアムの入り口まで来た時、

「送って行きたいんだけど……。俺、まだ残ってやらないといけないことあって」

心配そうにそう言うと、私の顔を覗き込んだ。

「うそっ!! ごめん!! 私がこんな時間まで……」
「あー、それは全然。元は俺のせいだし」

慌てふためく私とは対照的に、彼はフッと笑みを浮かべる。

その笑顔にホッとした私だったけれど――。

「で、今から兄貴に家まで送らせるから」

続けられた言葉が理解出来ずに、目を瞬かせた。

「え? あに……き?」
「おー。兄貴」

一瞬ポカンとしてしまったけれど、“兄貴”って普通はお兄さんのことをさすよね?

そうだとしたら、あり得ないでしょう!?

だって私、思いっきり無関係だし!!

「いやいや、大丈夫だから!! 家すぐ近くだし!!」

大慌て、かつ大ジェスチャーで頭と手をブンブン振った私を見て、また大笑いした彼は、私の拒否なんかお構いなしにポケットから携帯を取り出すと、

「――もしもし? 兄貴?」

“兄貴”に電話をかけやがった。