きせき


「今、俺のところにスペインのクラブチームから移籍の話がきてる」

覚悟して来たのに、やっぱりそれが現実になると……。

少しだけ、胸が痛くなる。

「うん。いいところ……?」

「おー、ビックリするくらいいいところだな」

そう言って、なぜか困ったように笑った航太。

「そっか」

一旦言葉を切った私は、静かに息を吐き出す。

「よかったね!」

「え……?」

「航太の実力、認められたってことでしょ?」

「……」

「おめでとう」

笑って祝福の言葉を口にした私の心の中を覗き込むような、航太のその瞳に……

どうしても、胸が締めつけられてしまう。

「行くんでしょ?」

「……」

一瞬黙り込んだ航太がゆっくりとその手を伸ばして、そっと私の髪に触れる。

「航太……?」

その航太の悲しそうな瞳に、やっぱりどうしても、胸が苦しくなるんだ。

震えないように、指をぎゅっと握りしめる私の耳に届いた航太の静かな声。

「――ごめん」

――わかってる。

でも……。

「なんで謝るの?」

「……」

「謝る必要なんて、どこにもないんだよ?」

そう言って私は笑顔を崩さないまま、航太を真っ直ぐ見つめる。

だって、私は航太がどれだけサッカーを大事にしているかを知ってるから。

だから謝らないといけない理由なんて何もない。

そう思うのに――……

「ごめんな、美青」

航太がまた悲しそうに顔を歪めるから。

「――……っ」

泣きたくなんかないのに、涙が零れ落ちてしまったんだ……。