きせき


「行くだろう、航太?」

あれから……。

そう聞いた安原さんに、俺は即答することができなかった。

サッカー選手なら、誰もが切望するような話なのに。

「少し考える時間、貰えますか?」

そう答えてしまう俺は、どこまで甘いんだろう?

「なぁ、兄貴はどう思う?」

「どうって、俺の話聞いてどうすんだよ」

俺の状態を聞いて、多分心配してやって来たのだろう兄貴に思わず訊ねた。

「頭では解ってんだよ」

そう呟いて頭を抱えた俺の頭上から、淡々とした口調で兄貴が言葉を落とす。

「サッカー選手なら、」

「え?」

「お前がサッカー選手なら、行くべきだろ」

「……」

そのもっともな意見に何も言えなくなるのは、自分自身でもそれがわかっているからだ。

これを逃したら、こんなチャンスはもう一生巡ってこないだろう。

だけど今のチームには本当に感謝していて、俺はまだその恩を返せてさえいない。

それに――……。

「美青ちゃんか?」

まるで俺の心を読んだかのような兄貴の一言に視線を上げた。

「……」

「そんな情けねぇ顔すんなよ」

そう言って、笑った兄貴。

「あの子だったら、何て言うかな?」

「……」

――美青だったら……。

「きっと自分のことなんか考えずに、“やったね!!”とか、“すごい!!”とか言って大喜びするんだろうな」

美青のその表情を想像しているのか、フッと優しく笑う兄貴に、

「勝手に美青のこと想像して、笑ってんじゃねぇよ」

湧いた感情は、くだらないヤキモチ。

美青は兄貴が言う通り、きっと涙なんか流しながら大喜びしてくれる。

それは分かってる。