きせき


「なぁ、美青ー」

「んー?」

夕飯を食べ終え、ソファーでコーヒーを飲む美青に声をかけた。

「美青、今の仕事楽しい?」

「なにー? 急に」

「いや、何となく」

別に深い意味があるワケじゃないんだけどさ。

なぜか、あの記者に言われた移籍話が頭から離れない。

移籍するとなると、今のチームを辞めて、当然だけど日本を離れて海外に行くんだよなぁ。

そんなことをぼんやり考えていたら、“そうなったら、美青も一緒に連れて行きたい”なんて、心の中の自分勝手な俺が美青の都合も考えずに暴走し始めて。

「仕事かぁ……」

だけど俺の目の前で、ちょっと悩んだように上を向いた美青は、

「楽しいよ! 大変だけど、やりがいもあるし!」

そう言って笑った。

そうだよな……。

仕事をしていた彼女を近くで見ていた分、その頑張りと能力の高さを俺は知っていた。

周りのやつらからの評判も良かったし、きっと会社でもそうなんだろう。

そう思うと、もし万が一移籍の話が出ても、やっぱり美青を連れては行けないんだと思った。

「で? それがどうしたの?」

そう言って、真っ直ぐ俺の目を見つめるから、

「いや、ただ何となく」

勝手な自分の心を隠すように、美青をそっと腕の中に閉じ込めたんだ。