「あれ?」
ある日の夕方、練習を終えて家に帰った俺がカギを開けて玄関に入ると、玄関とその先のリビングの電気が点いていることに気が付いた。
――消し忘れたか?
そう思って視線を下に向けると、そこにはきちんとお行儀よく揃えられた黒いパンプス。
美青、来てたんだ。
最近ポーカーフェースがすっかり崩れてしまっているらしい俺は、ゆっくりとリビングのドアを開けた。
「……あれ?」
ここじゃないのか?
そこに美青の姿は見当たらなくて、首を傾げる。
だけど、部屋を見回すとソファーの上で何やらゴソゴソと動く気配がして。
そこに近寄った俺の目に映るのは、仕事帰りなのか、スーツのまま丸まってスヤスヤと寝息を立てる美青の姿。
あまりにも気持ち良さそうな寝顔に、そのまま寝かせておこうかとも思ったんだけど。
「風邪ひくぞ」
長い髪をゆっくりと撫でながら、声をかけた。
「ん~……」
小さく唸り声を上げた美青だったけど、ぼんやりと開けた目に俺が映った瞬間――……
「あっ!! お、お帰りっ!! あれっ、いつの間に寝てたんだろ!?」
物凄い勢いで、慌てて飛び起きるから。
「美青」
「え……?」
「イビキかいてたぞ」
「うそっ!?」
「寝言も」
「ホントにっ!?」
「……嘘」
「はぁっ!?」
つい、からかいたくなってしまう。

