きせき


扉を開くと、立ち込める湯気が顔にまとわりつく。

視線の先の航太は、入口とは逆の方向を向きながら浴槽の縁に頬杖をついていた。

「……」

そろーっと浴室に足を踏み入れた私の気配に気付いたのか、顔の方向はそのままに、

「やっと来たな」

そう言って、また笑う。

「ちょっと待ってねっ!! 身体洗い終わるまで、そのままねっっ!!」

「わかってるって」

航太の言葉を信じながらも、時々その様子をうかがって……。

身体を綺麗に洗い終えた私は、ハタと考え込んだ。

さて、どう入ろうか。

昔はいつも、航太の胸に背中を付けて寄りかかって入っていたけど。

ううーーーん。

「……」

航太の正面に、向かい合って?

いやいや、ありえない。

「はぁー……」

考え込みすぎた私は、なんだかぐったりと疲れてしまって、“ちゃぷん”という水音と共に、浴槽に身体を沈めた。

沈めたんだけど……。

「え?」

悩んだ末、昔のように航太に背を向けて座り、その足の間にすっぽり身体を収めた私と、そんな私に、目を開けてちょっと驚いたような顔をした航太。

「えっ!? なんかダメだったっ!?」

慌てて身体を離そうとした私の腕を掴んだ航太は、

「ダメじゃねぇけど……」

私を元の位置に引き戻し、何やら歯切れの悪い返事を返す。

「ん?」

不思議に思ってその顔を覗き込んだ私から視線を逸らして、一瞬上を向く。

「平気。……多分な」

「“平気”? 」

「いや、美青には解らなくていい事情」

なんだかよくわからないことを言っているけれど、まぁ、いいと言うならいいや。

「ふぅーん」

ちょっと首を傾げてそう言った私を、航太は片方の眉を下げながら笑っていた。