――あの日は、雨が降っていた。
去年の夏、高校時代から付き合っていた正樹にあの場所に呼び出されて、何の前触れもなくそのことを告げられた。
「俺、学校辞めてアメリカ行くことにした……」
言っていることがすぐに理解できなくて、私は、何も言えなくて。
「ごめん。でも俺、どうしてもやりたいことを諦められない」
正樹は昔から写真を撮るのが大好きで、そのことだっていうのは、混乱する頭の中で何とか理解できた。
「大好きなフォトグラファーのオフィスに、ダメ元で撮った写真を送ってみてたんだ……」
正樹は目の前で、下を向きながらポツポツと言葉を落とす。
でも私は知らない。
そんなこと、ひと言も聞いてない……。
「そしたら、“俺のオフィスで勉強しながら働かないか?”って返事貰って」
「――……っ」
横を通り過ぎて行く自転車のタイヤの水音に、やっと思考が働き出して――それと同時に、涙が頬を伝う。
「……ごめん。泣かないで」
そう言って、それを拭った正樹。
――行かないで。
お願い、行かないでよ。
「嬉しかったけど、やっぱり1番最初に浮かんだのは美青のことで……。ずっと悩んでた」
「……」
「でも俺は、やっぱり夢を諦めたくない」
そう言い切った正樹の瞳を見たら、“行かないで”なんて言えなかった。

