「ふー……」
その日、仕事を終えた私は航太の部屋の扉の前で、ドキドキしながら深呼吸をくり返していた。
こうして自分の持っている合いカギで、その扉を開けるのは本当に久しぶりで。
「ちょっと緊張するなぁ」
小さく呟きながらカギを回すと“カチャリ”と、カギが開く音が静かな廊下に響いた。
ゆっくりと扉を開けると、玄関の電気だけが点いていて、きっと、航太が点けて行ってくれたのだと思った。
「お邪魔しまーす」
部屋に入った瞬間、ふわりと香るあの石鹸の匂いに、胸がトクトクと音を立てる。
廊下を抜けてリビングに入り、リビングの扉を開けた私の目に映ったのは、ダイニングテーブルの上に置かれたBlu-rayとメモらしき紙切れ。
「……」
そこには航太の字で、
“帰るまで観てて。冷蔵庫の中の物、勝手にどうぞ。ちなみに、第1部はもうプレーヤーにセット済み。再生押せば観れるから”
何だかたいそうご親切に……。
というか彼は、一体どれだけこの映画を観に行きたいんだろうか。
「まぁ、いっか」
お言葉に甘えて、遠慮もせずに開けた冷蔵庫から、いつものようにミネラルウォーターを取り出してソファーに腰掛けた。
テレビの電源を付けると、メモにあった通り、再生の準備は万端で。
わざわざここまで準備をして行った航太を想像して吹き出しながらも、膝を抱えるように座り込んだ私は、大人しく映画を見始めた。

