きせき


いつもよりも手早く髪や身体を洗い、風呂から出ると、美青はキッチンに立っていた。

「何してんの?」

「あっ! ごめん、勝手に借りちゃった」

「いや、別に謝らんでも。……何かいい匂い」

「お腹空いてるかなぁと思って。冷蔵庫の中、物色しちゃった」

そう言って笑った美青の手元をヒョッコリと覗き込むと、料理をしていた手をピタリと止めた。

「ん? どした?」

「あ~、ごめん。……航太、いい匂いだなぁって思って」

くすっと笑って、もう一度料理をする手を動かし始めた彼女の表情に――……

心臓がドクンと大きく跳ねた。

目の前の美青は、昔と同じように長い髪を頭のてっぺんで丸くまとめていて、その白くて綺麗な首筋に、思わず見とれてしまう。

「言っとくけど、美青も同じ匂いだから」

動揺を悟られないよう笑った俺に、驚いて目を丸くした美青は、ふわりと嬉しそうに笑って、

「そっか」

ただ一言だけ、そう言ったんだ。

別に焦ってるわけじゃない。

だけどその表情に、“美青に触れたい”って、やっぱり思ってしまう。

そんな気持ちを振り払うように冷蔵庫を開けた俺は、中から冷たいミネラルウォーターを取り出して、ゆっくりと体の中に流し込んだ。

「で、何ができあがるの?」

「んとね、フレンチトースト。こんな時間に甘いので申し訳ないけど」

「……」

「だって、牛乳と卵とパンしかないんだもん」

俺をチラッと見て、美青は呆れたように笑う。

「しょーがねぇじゃん、誰も料理しねーし」

「そうかもしれないけど~。こんなにいいキッチンが泣くよ?」

「じゃー美青が一緒に住んで、料理作ってよ」

俺は隣に立つ美青を見つめ、思わずそう口にしていた。

「え……?」

驚いて大きな目をますます大きくしたまま、美青はまた動きを止める。

「ばぁーか。冗談」

そう言って、美青の頭のてっぺんのまん丸をポンと叩いた俺。

その半分冗談で、

残りの半分は本気。