「……」
リビングへの扉をくぐった俺は、その場で足を止めて立ち尽くした。
美青……?
俺の瞳に映るのは、震える指で雨に濡れる窓ガラスにそっと触れる美青の姿。
「……っ」
その姿に、胸がズキリと痛んで息を呑んだ。
――あぁ、そうだ。
“あの日”もこんな、雨が降っていた……。
ここに来た瞬間から、美青の様子がおかしいことには気付いていたのに。
笑顔で誤魔化そうとしてるけど、優しい美青は、自分を責めているんだ。
俺と別れたあの時から……今だって、ずっと。
美青のその気持ちを取り除きたいのに、ぴったりの言葉が思い浮かばない俺は、
「ごめん」
ただ一言、そう呟くことしかできなくて。
俺の声に驚いて振り返った美青は、静かに泣いていた。
美青の気持ちを思うと、胸が痛くなる。
どうして美青を一人にしたんだろう……。
「ごめんな……」
たくさんの“ごめん”を含んだ、その言葉しか浮かばない自分が悔しくて、握りしめた拳に力が入る。
「あの日も、雨降ってたな」
こうして美青の過去に触れて、ちょっとでも今の俺の気持ちを、その時の記憶に重ねられたら、少しは美青の心が楽になるんじゃねぇかって……。
俺は、そんな風に思ったんだ。
泣いている美青を抱きしめて、“もう大丈夫”って言ってやりたいのに、今の俺達の曖昧な距離がその邪魔をする。
「境界線がわからなくて、難しいな」
美青の濡れた瞳に、本音が口から漏れ出てしまう。
「あの時、何であんな簡単に、美青を手放したんだろうな……」
――そうだよ。
あの日だって、美青はこんな目をしていたのに……。

