きせき


「……」

何も言えないでいる私に、ゆっくりと近付く航太。

「美青に、どこまで触れていいんだろ」

困ったように、少しだけ微笑んで、

「境界線がわからなくて、難しいな」

私の濡れた髪を、ゆっくりと撫でつけた。

そして一度、大きく息を吐き出すと、少し俯いてポツリと呟いたんだ。

「あの時……。何であんな簡単に、美青を手放したんだろうな」

それが、航太の“ごめん”に続く言葉。

航太。

あなたはどこまで優しいの?

あんなにも酷い言葉であなたを傷付けたのは、私なのに。

「違うよ、航太。違う」

気付くと溢れていた涙のせいで、ほんの少し聞き取りにくくなった私の声が静かな部屋に響く。

「謝らないといけないのは私の方。私は、あんなにも酷い言葉で航太を傷付けた」

「……」

「本当にごめんなさい……」

ゆっくりと上げた視線の先には、相変わらず航太の困ったような笑顔があって。

「俺たち、お互いのことばっかり考え過ぎてたのかもな」

そう言うと、私の頬にそっと触れた。

「美青、身体冷たくなってる。この話はまた後でにして、風呂入っといで」

そこに手を添えたまま、柔らかく微笑む。

――でも。

「ダメだよ! 航太の方が風邪ひいたら大変なんだから、航太が先入って!!」

遠征先で、風邪薬も飲めないと言った彼を思い出し、慌ててそう口にする。

だけど一瞬驚いた表情を見せた航太は、次の瞬間、ニヤリと笑って言ったんだ。

「じゃー、一緒入る?」

「はっ!?」

「んー? だって美青、俺より先に入る気ないでしょ?」

「う、うん」

「俺も美青より先に入る気ないし」

「……」

「だったら、一緒に入るしか――……」

そんなありえないことを言いかけた航太に私は、

「先に入る!!」

気が付いた時には、そう叫んでいた。