きせき


「どうぞ」

17階でエレベーターを降りて廊下を進み、一番奥の部屋のドアのカギを開けて、玄関に私を招き入れた航太。

「お邪魔します」

「はい。……つっても、相変わらず何もねぇけど」

小さく笑った航太は、“ちょっと待ってて”と、一旦部屋に入り、タオルを持ってすぐに戻ってきた。

「とりあえず」

それをパサリと、私の頭から掛ける。

「ありがと」

「ん……」

そのまま懐かしい廊下を歩いて行き、リビングへの扉がゆっくりと開かれた。

ドクン。

目の前に広がるのは“あの時”と同じ、雨に濡れた窓ガラスと、滲んだ夜景。

「……っ」

あの日のことを思い出して、また胸が締めつけられて。

足が床に張り付いたみたいに、私はそこから先に進めなくなってしまった。

「美青?」

「ごめん、なんでもない」

「……」

「身体、冷えちゃったね!」

心配をかけたくなくて、笑顔でそう言うと、航太は一瞬真剣な顔をしたけれど……。

そのまま特に、なにも言うことはなくて。

「――だな。風呂沸かすから、ちょっと待ってて」

私の濡れた髪の毛をポンポン撫でて、リビングを出てバスルームに消えていった。

「……」

お風呂とか、入ってもいいのかな?

確かに気持ちは通じ合った気がするけど。

ん~……。

ほんの数時間前までは、何も気にしていなかった、この曖昧な関係。

だけど、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったし。

「困ったな」

小さくそう呟いた私は、再び雨に濡れる窓に視線を移した。

そして、やっと動き出した足で、引き寄せられるようにその窓辺に立つ。