きせき


「お前、バカ正直だな」

「……」

「んなもん俺に秘密にして、さっさと付き合っちゃえばいいのに」

さっきまでのキツイ視線が嘘だったかのように、笑いながら俺にそう言った多田さん。

「お前の気持ちは、ありがたいよ。でも、俺はこれでいいと思ってる」

そう言って、何が楽しいのか、またにっこりと笑う。

「勝ち負けじゃないけど……。勝ち目なんて、最初からなかったんだよ」

「……」

「ここだけの話、あの日、談話室で美青に逢った時、自分の気持ちを伝えようとしたんだ」

「え……?」

「でも、お前の写真を見る美青の顔を見たら何も言えなくなった。で、戦う前に戦線離脱」

「……」

「そんな顔すんなよ。俺はそれで満足してるし」

またちょっと笑った多田さんは、

「それに、残念なことに俺はお前みたいなやつ、嫌いじゃないし」

困り果てたような口調で、そう言った。

多田さんの誰にも明かされることのない話に、胸を少し重たくしながら部屋に戻った俺は、無性に美青の声が聞きたくなった。

しばらく悩んだ末、結局受話器に手を伸ばして美青の部屋番号を押す。

「はい、佐々木です」

「――もしもし」

「航太?」

「おー……」

少し鼻にかかったような声を出す美青は、もしかしたらもう眠っていたのかもしれない。

美青だって仕事で毎日忙しいんだ。

勝手な自分に呆れて、早々に電話を切ろうと思って“なんでもない”って、口を開きかけたのに。

「どうしたの? なんかあったんでしょ?」

受話器越しに聞こえたのは、柔らかく紡がれた美青のそんな言葉だった。

「何で……?」

「え? だって、元気ないんだもん」

美青のその一言に、胸がスッと軽くなる。

何で声聞いただけでわかるんだよ。

「いや、別にー」

「……」

なんて言いつつも、本当はあんなにも美青を大切に想う多田さんに、嫉妬してるんだ。

それと同時に、自分の小ささを嫌というほど思い知った。

「美青ー」

「んー?」

「大事にするから」

「え?」

思わず漏れた俺の本音に驚いた声を上げた美青は、クスッと笑って言ったんだ。

「大事にされてなかった記憶なんてないけど?」

「……っ」

この美青の優しさに、俺は何度救われたんだろう。