きせき


「で……だ、」

私を腕の中から解放した航太は、そのまま少し歩いて、近くのベンチに腰を下ろすよう促すと、おもむろに、その口を開いた。

「今までのこともあるし、」

「え?」

突然そう切り出したから、意味がよくわからなくて。

目を瞬かせながら視線を送る。

「あー、俺たちのことね」

「あ……、うん」

「会長の言うことも、一理あると思うんだ。……ムカつくけど」

航太らしい物言いに、思わず笑ってしまう。

「そうならないって信じたいけど、今はチームもいい状態だし……。俺たちのことで気を遣わせたり、変な感情を持ってもらいたくないんだ」

「うん。それは私だって同じ」

「ん。だから、さ」

ちょっと間を取った航太は、言い辛そうに足元に視線を落として、

「ワールドカップ終わるまで、今のままの関係でいたい」

静かに、だけど強い意志を感じる声でそう言ったんだ。

「勝手なこと言ってるのはわかってんだけど……」

申し訳なさそうに下を向いて、頭を掻きながらそう言う航太。

だけどそれは、申し訳なく思うことではないし、むしろ当然のことだと思う。

「なに言ってんの? そんなの当たり前じゃん! 私は全然平気だしっ!!」

だから、心配をかけないようにと思って、私はできるだけ元気よく笑ってそう答えた。

――なのに。

「えっ!? なに!?」

一瞬目を見開いた航太は、次の瞬間、思いっきり不貞腐れた視線を私に向けたんだ。

「気にくわない」

「はっ?」

「“全然平気”……ね」

「えっ?」

「俺は、“全然平気”じゃないんですケド」

「……」

睨み付けるような目を私に向けたままそう告げると、

「あ゛ーもーーっ!! 今の無しっっ!! あほかっ!!」

一人で頭を掻きむしりながらベンチから立ち上がって、また砂浜に向かって歩き出した。