きせき


「……あれ?」

シャワーを浴び始めて数分が経った頃。

バスルーム内で、シャワーを止めて耳を澄ます。

私の耳に届いたのは、小さく聞こえる電話のベルの音で……。

慌ててバスルームから飛び出した私は、濡れたままの手で受話器を上げた。

「はっ、はい!! 佐々木ですっ!!」

ものすごい勢いでバスルームを飛び出したせいで、言葉まで、恥ずかしくなるくらいの勢いで出てしまった……。

「……」

「……あの、どなたですか?」

なにも言わない電話の相手に、戸惑いながら声をかけた私は、

「くくくっ! すげー勢い」

「……」

その声に、言葉を発することさえできなくなる。

「何そんな慌ててんの?」

受話器から聞こえる楽しそうな声は――……

航太の声。

シャワーで火照った身体に、勢いよくドクドクと血液が送り出されるのを感じる。

「もしもし? 聞こえてる?」

「あ、う……ん。聞こえてる」

しどろもどろに言葉を返す私の耳元で、小さな笑い声がクスッと聞こえる。

「航太だけど」

「うん……」

――“航太だけど”

たったその一言に、一体どんな魔力があるのか。

ただ一言のその言葉に、私の視界が一気に滲む。

「美青、今なにしてた?」

ギューッと軋む心臓を押さえて、小さく息を吐き出した私は、

「シャワー、浴びてた」

声が震えないように、そう言葉を紡いだ。

「あー、そっか。それであの慌てようね」

電話に出た時の私を思い出して、またちょっと笑った。

「タイミング悪かったな。かけ直した方がいい?」

「ううん!! 大丈夫っ!!」

無駄に力が入ってしまった私に、航太はきっと気付いているのに、

「そっか」

ほんの少し嬉しそうに、でもほとんど変わらない口調で話を続ける。