だいぶ慣れた建物の中を歩き、目的の部屋の前で立ち止まる。
“コンコン”
会長室の扉をノックした私に、吉田会長の返事が聞こえた。
「失礼いたします、佐々木です。遅くなって申し訳ありません」
そう言って室内に踏み入れた私の目に映ったのは、会長と一人の男性。
「あぁ、佐々木さん。忙しいのにすまないね。とりあえず、かけてくれるかい?」
そう告げた会長の声はいつもよりも少し低くて、何かを察したかのように、私の心臓がその動きをわずかに速める。
「……」
そこに溜まっている重たい空気に、思わず息を呑んだ。
コの字に並べられたソファー。
横にある一人掛けのソファーに腰を下ろした会長と、私の正面に座った男の人。
まるで何かを探るように視線を向けるその人に、居心地の悪さを感じる。
それを表情に出さないように心がける私の目の前で、その人は会長に視線を送ると、ゆっくりと一度頷いた。
な……に?
恐怖心にも似た感情が芽生える私の視界の端で、会長がゆっくりと口を開くのが見えた。
「佐々木さん」
「はい」
「君は昔、宮崎と交際していたそうだね?」
「……え?」
思いもよらないその問いかけに、一瞬で頭が真っ白になる。
私のその様子を肯定の意味だと判断した会長は、そのあと信じられない言葉を私に向けて発したんだ。
「佐々木さんの正面にいるのは、ユースの高橋さんだ」
「――……っ」
――“ユースの”?
なんで、そんな人が?
「高橋さんは先日のトーゴ戦の視察に来ていてね。スタッフの中にいる君を、たまたま見かけたそうだ」
ドクン。
大きな心臓の音と共に、嫌な汗が背中を流れ落ちるのを感じた。

