きせき


速まる鼓動とは真逆に、すっかり固まってしまった私の様子を見て、フッと笑うと、

「覚悟決めちゃえば、簡単だったんだな」

航太は真っ直ぐ視線を合わせたまま、よくわからない言葉を口にした。

「な……に?」

「ん? こっちの話」

“こっちの話”って……。

何を言っているのかさっぱり分からなくて、思わず眉を寄せる私の耳に、少し離れた所から航太を呼ぶ声が聞こえた。

「はーい。今行きます!」

その声に振り返った航太は、いつもと変わらない口調で返事をすると、また私に向き直り、

「美青」

誰に聞こえているかもわからないこんな場所で、静かに私の名前を呼んだ。

「前言撤回」

「え?」

周囲を気にする私の目の前で、片眉を下げ、ちょっと情けなさそうに笑うと、

「覚悟しといて」

私の頭にその大きな手をポンッと乗せて、横をスッと通り過ぎ、そのまま呼ばれた方へ歩いて行った。