きせき


「ん~……」

カーテンの隙間から部屋に差し込む微かな光で目を覚ました私は、ベッドの上に航太がいないことに気が付いた。

「……航太」

寝起きでボーっとする頭で、昨夜のあれは幻だったのではないかと一瞬考えた。

でも、背中に掛けられた毛布と微かに残るあの香りが、航太がここに確かにいたことを私に教えてくれて。

たったそれだけの事実が、私の胸を切なく、甘く締めつける。

「航太?」

もう一度部屋を見回して、その名前を呼んでみるけれど、やっぱり返事はなくて……。

だけど代わりに、デスクの上に一枚のメモを見つけた。

“ありがとう。ごめん”

たった二言だけのその手紙。

これは、航太の字だ。

そこにあったのは、あの頃と変わらない、少し角ばった航太の文字で、微かに震える指で、それをなぞる。

“ごめん”

その言葉に、航太の体を心配しながらも、

「迷惑だったかな?」

そんな思いが頭を巡る。

「……」

航太が眠っていたベッドに再び突っ伏して、昨日のことを思い返した。

まだ残っている、私の腕を掴んだ航太の手の感触。

私を見上げたあの濡れた瞳に、まだこんなにも胸が締めつけられて、息苦しささえ憶える。

たったあれだけのことで、こんなにも私の心を揺さぶることができるのは、きっとこれから先も航太だけ。

ねぇ、航太。

もしも本当のことを話したら――……。

あの時の嘘を、あなたは許してくれるかな?

でも、これからの航太のことを考えたら、そんなことをできるはずもなくて。

「はぁー……」

バカみたいな絵空事に小さく吐き出された私の溜め息は、薄暗い部屋に吸い込まれるように消えていった。