それから……。
「そっか」
俺から目を逸らすことなく、そう答えた多田さんは、
「本当はもうちょっと話したいこともあるけど、今日はこのくらいにしておこうか。明日も朝から練習だろう?」
呆気に取られる俺をよそに、もう話すことはないという様子で立ち上がり、部屋に戻るように促した。
「……」
多田さんのよくわからない言動に、消化不良気味ではあったけど。
もうそれ以上話す様子のない多田さんにかける言葉も見当たらず、俺はゆっくりと立ち上がって、部屋を後にしようとドアに向かって歩き出した。
ドアノブに手をかけ、部屋の外に出た瞬間、
「宮崎君」
そう静かに呼び止められて、ゆっくりと振り返った。
「はい」
振り返った俺に、多田さんは一瞬考え込むようなしぐさを見せて。
口を開くと、思いもよらない言葉をかけたんだ。
「美青に、きちんと自分の気持ちを話した方がいいよ」
「……え?」
――どういう意味だ?
その発言に、俺はますます混乱する。
気持ちを伝えて、きっぱり諦めろってことか?
「俺ができるのはここまでかな。後は頑張って」
だけど当の多田さんはニッコリと笑って、混乱する俺を放置したまま、“じゃー、また明日もよろしく”と、そのまま扉を閉めてしまった。
廊下に取り残されたのは、事態が掴めず呆然とする俺、ただひとり。
“頑張って”って、何だよ。
「……意味わかんねぇ」
一瞬天井を仰ぎ、溜め息を吐き出す。
「でも、多田さんには感謝だな」
多田さんが、何を思ってあんなことを言ったのかはわからない。
でも俺はこの時、心に決めたんだ。
たとえ俺の願いが叶わなかったとしても、ワールドカップが終わったら、きちんと美青と話をしよう。
俺の気持ちを伝えよう。
「やっと向き合う覚悟ができたよ」

