きせき


エレベーターに乗り込み、俺の部屋のある階の二つ下で降りて、薄暗い廊下を進んで……。

一番奥の部屋の前で立ち止まった。

「ふー……」

ドアの前で、大きく深呼吸を一つ。

冷静になって考えると、俺は今からすげーことをしでかそうとしているワケで。

いわば“宣戦布告”を、好きな女の彼氏相手にしようとしてるんだよな。

まぁ、今更悩んでも仕方ねぇし。

なかば開き直りに近い気持ちのまま、俺は多田さんの部屋のドアをノックした。

寝ている人たちを気遣ってか、静かにカチャリと開いた扉の向こう側から、相変わらず感情の読めない笑顔を浮かべた多田さんが顔を出し、

「どうぞ。ちょっと汚れてるけど」

そう言って、俺を部屋に招き入れたんだ。

「……お邪魔します」

部屋に通され、窓辺の椅子に向かい合うように腰をおろす。

「すみません、こんな夜中に」

「いや、大丈夫だよ。でもこんな時間に男二人が部屋で向かい合って話ってのも、気持ち悪いもんだな」

多田さんは苦笑いを浮かべたあと、何かに気が付いたように立ち上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出した。

そのうちの一本を俺に渡すと、再び腰を下ろした。

「で、話ってのは?」

「……」

別に楽しく談笑をしに来たワケじゃないからいいんだけどさ……。

こんな風に、いきなり核心に迫られると言葉に詰まってしまう。

「美青のことだよな?」

「……はい」

まるで助け舟を出すように、少し笑ってそう言った多田さんの目を見据えながら、俺は静かに返事をした。

「多田さんのことは、美青から……佐々木さんから聞いてます」

「……そう」

やっぱり特に表情を変えることもない彼からは、素っ気ない返事が返ってくる。

「さっき俺が彼女の部屋にいたのを見て、なぜ何も言わなかったんですか?」

――何で、“彼女”の部屋にいた男に……。

俺の問いかけに、顎に手をあてて、“んー”と少し悩んだ多田さんは、

「俺が口出すところじゃないからな」

少し微笑みながら、そんな答えを返してきたんだ。