一瞬黙り込んだ多田さんは、俺の様子を少し眺めると、
「あぁ、いいよ。ただ、ちょっと場所を変えよう」
にっこりと笑って、そう答えた。
「……はい」
「俺の部屋でもいいかな? この時間に談話室は目立つし」
「わかりました」
「じゃー先行ってるよ。準備出来たらいつでもどーぞ」
そう言って、美青の様子を確認することもなく振り返った多田さんは、すんなりと来た道を引き返して行った。
「……」
何で俺がここにいたのに、美青の様子を気にかけないんだ?
小さな疑問と共に湧き上がる、嫌な感情。
彼氏の余裕?
美青を信用してるから?
それとも、俺なんか眼中にないって?
色んな思いが頭に浮かびゴチャゴチャになった頭を掻きむしった俺は、大きな溜め息を洩らした。
一旦薄暗い美青の部屋に戻って、まだすやすやと眠る彼女を見つめ……。
その体に、そっと毛布をかけた。
「ごめんな」
小さくそう呟き、髪をそっと撫でる。
自分の気持ちばかりを優先させて、こんなにも勝手なことをする俺を、美青はどう思うだろう。
そう考えると、胸が痛んだ。
だけど……。
「このまま引き下がれるかよ」
これが俺の、自分勝手な本音。
勝手に出て行って美青に変な心配をかけないように、デスクにあった紙にメッセージを残した俺は、ゆっくりと、その懐かしい香りがする部屋を後にした。

