きせき


「――あれ?」

開けたドアの向こうの廊下は、電気が消されて仄暗い。

そこに佇む多田さんは、俺を見た瞬間、目を見開いて心底驚いた顔をした。

ドクン。

俺……何してんだ?

多田さんのその表情に、ハッとした。

自分の起こしてしまったことに、背筋が冷たくなる。

――美青を苦しめてどうするんだよ。

「……」

別に、何もなかった。

でもこんな時間に、自分の女の部屋に他の男がいたら……。

常識的に考えて、いい感情は抱かないだろ。

一度冷えた背中を、気持ちの悪い汗が流れ落ちる。

何か言わないと。

ちゃんと事情を説明しないと――……。

焦るばかりで何も言えない俺をじっと見上げたまま、先に口を開いたのは多田さんだった。

「宮崎君? 何でここに?」

――何だ?

その声に抱いた小さな違和感。

「……」

多田さんの感情が、全く読み取れないんだ。

特に表情を変えることなく、

“ただ疑問に思ったから”

そんな様子で俺に質問をする多田さんに、俺はまた何も言えなくなる。

「なんで君が美青の部屋に?」

静かに、もう一度そう尋ねた多田さんの瞳を真っ直ぐ見据えた。

「……」

ちゃんと事情を話せばいい。

――でも。

抱いてしまった違和感のせいなのか、頭をよぎったその考えに自分でも驚いた。

“美青を、取り戻したい”

俺の頭をよぎったのは、今まで感じたことのないそんな感情。

「多田さん。ちょっと話をしたいんですけど、いいですか?」

気が付いたら俺は、目の前の彼に向かって、そう口にしていたんだ。