きせき


「……」

鼻の奥がツンとして、視界が滲む。

あの頃より、少しだけ大人びたその顔。

「ダメだなぁ、私」

小さく呟いて、航太の頬にそっと触れた。

「……っ」

するとその手を、てっきり眠っているものだとばかり思っていた航太の手が、ぎゅっと握ったんだ。

「ご、ごめんっ!!」

慌てて手を引こうとした私を、航太は逆に自分のほうに引き寄せて……。

――ドクン。

胸に倒れ込んだ私を、その腕に閉じ込めたんだ。

耳元から聞こえる、この速くて大きな鼓動は、私?

それとも航太?

「こう……た?」

「……」

だけど、小さく呼びかけた私の言葉に、航太からの返事はなくて。

恐る恐る顔を上げた。

「……航太?」

これは、寝てる?

寝てるよね?

さっきよりも少し落ち着いた呼吸をくり返す航太は、私の問いかけには相変わらず反応を示さない。

「もー……勘弁してよ」

思わず洩れる、大きな溜め息。

私のドキドキを返せ!!

「……」

でも――……

ついつい緩んでしまう頬。

そっと航太の腕から抜け出して、その顔をマジマジと見つめる。

「ねぇ、航太。……大好き」

小さく、本当に小さくそう呟いた私は、緊張から解放されて気が緩んだのか……。

気付いたら航太の隣で、バカみたいに眠ってしまっていたんだ。

その眠りはとても深く、とても幸せな眠りで。

こんな気分で眠れたのは、航太と付き合っていた、あの頃以来だった。