きせき


だけど、ゆっくりと部屋のドアを開け、廊下に出た瞬間……

「航……太?」

驚きのあまり、周りに誰がいるのかさえわからないその場所で、小さくその名前を口にしてしまった。

「……航太!? どうしたの!?」

駆け寄った私の目の前には、私の部屋から少し離れた廊下の壁に寄りかかり、しゃがみ込む航太の姿。

「ねぇ……っ」

人の目なんて気にすることもできずに、彼のその肩にそっと触れる。

――熱い。

慌ててその顔を覗き込むと、航太は眉間にしわを寄せて目をつぶったまま、浅い呼吸を繰り返していて……。

「航太!!」

もう一度声をかけると、いつもよりも潤んだ瞳をゆっくりと開き、ぼんやりとした視線を私に向ける。

「航太……具合、」

“悪いの?”

そう続けようとした私の言葉を遮り、

「……何でもないよ」

航太は、フラフラと立ち上がろうとする。

「でも……っ!」

思わずその腕に手を伸ばして、ハッとした。

着ているシャツが、汗でしっとりと濡れている……。

「航太、熱があるの?」

そう問いかける私に、一瞬その視線を向け、

「何で、ここにいるの?」

掠れた声で、逆に私に質問をしてくる。

「……」

“航太が気になって、航太の部屋に行こうとした”

そんなこと言えるはずがなくて、思わず言葉に詰まってしまった。

コクリと唾を飲み込み、少し苦しそうに息を吐き出した航太は、

「……ここ、6階だよな?」

続けざまにそう尋ねる。

「ここは5階だよ?……航太こそ、何でここに?」

「水なくなって……買いに来て……間違った」

下を向いたまま、小さくそう言葉を発すると、フラフラとした足取りのまま、エレベーターに向かって歩き出したんだ。