きせき


朝から雨が降っていた。

現地のスタッフも驚くくらい珍しい雨の量で、それがシトシトと、落ちた先の大地の色を変えていく。

「……」

その窓ガラスから目を逸らせずにいる私の胸が、ギュッと締めつけられる。

雨に濡れる窓ガラスを見ると、いつも思い出すんだ。

航太と別れた日の、雨に濡れた夜景を――……。

窓ガラスの水滴を指でなぞり、

「航太」

小さく、その名前を口にしてみる。

昨日空港で、川崎君に呼ばれた時……ドキリとした。

だって、大抵その隣には航太がいるから。

そして案の定、私が向けた視線の先には航太がいて、表情を変えることなく私を見つめていた。

“昔のことは忘れよう”

ハッキリとした口調で、そう言った航太。

それって、私と航太が一緒にいた時間をリセットするってことだよね?

二人に近寄りながら、悩んだ末に、私の口から出た言葉。

――“宮崎君”。

それを口に出すことで、今までの航太との時間を、自分で少しずつ消していっているような……そんな気分になった。

“普通”ってどういうこと?

私と航太の“普通”って……?

「はぁー……」

考え出すとキリがないし、考えたところで、もうその先がないんだ。

「……もう、忘れなきゃ」

ポツリと落とした言葉と一緒に、私はゆっくりと頭を振った。

きっとこうやって頑張って、ちょっとずつ、ちょっとずつ――……

航太のことを忘れていくんだよね?

いつかその姿を見ても、胸がドキドキしなくなるのかな。

もう一度雨に濡れる窓ガラスに視線を移し、一つ深呼吸をする。

これからまた数日間、航太と同じ空間で過ごすんだ。

「とりあえず、普通に“おはよう”くらいは言えるようになろう」

そう呟いて、私は朝食を取るために食堂に向かった。

だけど……そこに航太の姿を見つけることはできなかったんだ。