きせき


これから俺達は、ワールドカップ前の親善試合のためにトーゴに向かうところで、ざわつくロビーで出国待ちをしていた。

「あっ!!」

「お前何なんだよ。ホント落ち着けって……」

すぐ隣で大声を上げた稜を思わず睨みつける。

「“美青ちゃん”だ!!」

「……」

“美青”

あれから一度も会っていない彼女の名前を聞いて、素直すぎる俺の心臓が大きな音を立てる。

そんな俺になんてお構いなしに、やかましい男・稜は、

「お~い!! 美青ちゃ~~ん!! 久しぶりぃ!!」

彼女に向かって、大きくブンブンと手を振った。

それに反応した美青が、ゆっくりと振り返り――……

その視線が、稜の隣に立つ俺に向けられ、わずかに揺れる。

「お~い! こっち椅子空いてるよ!」

俺達の状態なんて知るはずのない稜は、近くの椅子を指差していて。

一瞬戸惑ったように俺に視線を向けた美青が、ゆっくりと近づいてくる。

「美青ちゃん! 久しぶりだねぇ!」

ワンコロのように人懐っこい笑顔でそう言った稜の、数歩手前で立ち止まった。

「お久し振りです。川崎君も……宮崎君も」

そう言って、少し戸惑ったように笑った。

――“宮崎君”。

わかってる。

“昔のことは忘れよう”

そう言ったのは俺だ。

それはつまりこういうこと。

仕事上の付き合いだけの、“ほとんど赤の他人になる”ってことだ。

それは、ちゃんとわかってる。

「どうも」

そう言って小さく下げた俺の頭を、稜がグイグイと、もっと下に押し下げる。

「ごめんね、美青ちゃん!! コイツ女嫌いでさぁ」

「……え?」

その言葉に、少し曇る美青の表情。

「稜、余計なこと言ってんじゃねーよ」

「はいはい。航太クンはまだご機嫌斜めなのね~」

そのまま美青に話しかけ続ける稜から、少し離れた椅子に腰かけた俺は、まるで何かを誤魔化すようにヘッドフォンをつけて、周りの全ての音を遮断した。