きせき


「そんな顔しないでよ」

「ごめん」

「何の“ごめん”?」

「……」

気付いたら、“ごめん”と口にしていた私に、正樹は静かに問いかけた。

「あの時、」

「うん、わかってる」

「……え?」

“わかってる”って、何を?

思いもよらない一言に、驚いて目を見開いた私。

そんな私に、正樹はゆっくりと話を続けたんだ。

「別れた時の美青の言葉が、全部嘘だったこと」

どうして、それを……?

自分でもわかるくらい、みるみる大きくなっていく私の瞳。

「なんで……?」

小さくそう問いかけた私に、正樹は相変わらず柔らかい表情を浮かべたまま、私を心底驚かせる言葉を口にする。

「何年一緒にいたと思ってるの? 美青の嘘くらい、すぐわかるよ」

「……っ」

「ありがとう」

「……え?」

――“ありがとう”ってなに?

少し滲んだ視界に、思わず声が漏れる。

「美青があの時、俺を突き離してくれなかったら、多分ここまで頑張れなかったから」

「……」

「美青にあんな辛いことをさせたのに、途中で逃げ帰るなんてできないだろ? だから“ありがとう”」

ニッコリと笑った正樹のその表情に、長い間胸に溜まったままだった何かが溶かされて、そこがスッと軽くなった気がした。