きせき


夕食の時間になっても、航太の笑顔を思い出してしまって、どこかボーっとしながら食事を口に運んでいた。

「美青ちゃん」

「――……っ!」

目の前に急に置かれたトレーに驚いて、肩が大きく跳ね上がる。

こんな風に私を呼ぶ人なんて、ひとりしかいないのに。

息を呑みながら視線を上げると、案の定、そこにはちょっと首を傾けて、私の様子を覗き込むお兄さんがいた。

「宮崎さん」

「ここ、いいかな?」

そう言って、目の前の席を指差す。

「あ……はい。もちろん」

「どうも」

椅子に腰をおろし、手を合わせると、

「いただきます」

礼儀正しく、挨拶をした。

「……」

そういえば、航太もそうだったなぁ……。

言葉遣いは悪いのに、“いただきます”と“ごちそうさま”の挨拶だけは無駄にしっかりしていて。

お兄さんのそれと重なって、思わず笑ってしまった。

「ん? どうしたの?」

「いえ、きちんと教育をされるお家で育ったんですね」

「あ~、挨拶?」

「はい」

そう返事をすると、お兄さんは全てを悟ったように、フッと笑って、

「俺もあいつも、ちっこい頃、親にビシバシしごかれたからなぁ」

まるでその頃を思い出すように、二重の瞳をスッと細めた。

「そうなんですか」

「航太なんてさ、親に怒られそうになる度に俺の後ろに隠れてさ~。あいつずるいんだよ」

「……」

「俺の背中にガッツリくっついて、絶対に離れないんだよ。だから、何故か毎回俺まで一緒に怒られる羽目になってさ」

“クククッ”と笑うお兄さんは、本当に楽しそうで、航太のことが大好きなんだって、今更ながら再確認してしまう。

「昔は可愛かったんだよ。今でこそあんなにクソ生意気に育ったけど」

だけど、お兄さんはやっぱりお兄さんで……。

そう言うと、今度は私に意味ありげな視線をよこす。

「……」

ちょっと膨れて、視線から逃げるように目を逸らした私を見て、お兄さんはまた笑って。

「あいつもそうだけど、美青ちゃんも本当に素直だよね」

なぜか嬉しそうに、そう言ったんだ。