きせき


「はい、宮崎です」

何回目かのコールの後、電話に出たお兄さんの声は、少し鼻にかかったような声だった。

「もしもし、佐々木です。……お休み中でしたか?」

「あ~、知らぬ間にちょっとウトウトしてた」

「すみません。さっきお電話いただいたお部屋の件で」

「あぁ。取れそう?」

「はい。ただ、シングルになってしまいそうなんです」

「問題ないよ。じゃー、それでよろしく」

きっとお兄さんだって相当疲れているから、手短に電話を終わらせないと。

「わかりました。それで、ルームキーを用意するのに、その方のお名前が必要なんです」

「そっか。スッカリ忘れてた。んとね、名前は“タダ マサキ”」

「……え?」

タダ……マサキ?

お兄さんの口から出された名前に、思わず反応してしまった。

でも、そんなわけがない。

正樹が、こんな所にいるはずがない。

正樹はあの夏、私と別れてアメリカに渡ったんだから……。

「ん? どうかした?」

「……いえ。あの、その方は何関係のスタッフの方なんですか?」

「あー、そっか。美青ちゃんはまだ会ったことなかったよね」

「はい」

「“タダ”は、うちの専属カメラマンだよ」

心臓が、大きく脈打った。

――カメラマン?

「専属のカメラマンがいないと、無認可の写真を変なことに使われる時があるからね。一応専属の人を雇ってるんだ」

「……」

「美青ちゃん?」

「あ、すみません。そうなんですね」

「うん。それがどうかした?」

「いえ、何でもないです」

「そう?」

ちょっと不思議に思っている様子のお兄さんの声が、さっきよりも、ほんの少し遠いところから聞こえている気がした――……。