きせき


夕飯を食べ終わった後、自分の部屋に戻ったものの……。

特にすることもなくて、一人でホテル内をフラフラしていた。

「――……だよね」

「……かな?」

この……声。

談話室の前を通りかかった時、ふと、聞き覚えのある声がして思わず中を覗き込んだ。

「……っ」

そこには、美青の姿と――……

昼の練習の時、カメラのファインダーを覗き込んでいた、あの男。

――“多田サン”がいた。

手に持った何かを覗き込みながら、親しげに笑い合う二人に、違和感を覚える。

多分、今日出逢ったとか、先月出逢ったとか……そんな雰囲気じゃない。

もっと前からの知り合いだと思う。

“多田”?

俺と付き合っていた頃には、全く聞いたことのないその名前。

だけど、

胸騒ぎがする。

あの男、どこかで見たことがある気がするんだよな。

……どこだ?

自分の記憶を片っ端から引っ張り出す。

なかなか想い出せないジレンマに、額に手を当てた、その時――……

「これなんか、ホント“正樹の写真”っぽいね」

少し笑いながら、優しくその男の名前を呼ぶ美青の声が聞こえた。

ドクン。

大きく脈打つ心臓。

“正樹”

美青の口からその名前を聞いた瞬間、あやふやだった記憶が一気に蘇った。

あいつだ……。

初めて美青に逢った時に、一緒にいた男。

美青を置いてアメリカに渡った、あの男だ。

“正樹”

“多田 正樹”

それがあいつの名前だったんだ。