「クソ兄貴」
部屋に入るなり、カバンを投げ捨てた俺は思わずそう呟いた。
あの日、美青に再会した日。
普段“女なんかどうでもいい”って感じの態度を取る兄貴が、美青にあんな風に接するのを見て、本当のところ嫌なことを考えた。
“もしかして、兄貴は美青のことが好きなんじゃないか”って。
それに、あんな所で美青の立場を考えずに、あんな行動を取った自分と、きちんとそれを考えられる兄貴との差を感じてありえないほど悔しかった。
なのに、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか――いや、多分知っててわざとだろうな。
いつものように、帰ると部屋に兄貴がいた。
「……マジ訴える」
そう吐き捨てて睨んだところで、兄貴が気にするはずもなく。
「そうか。じゃーいい弁護士探さなきゃだな」
なんて、相変わらずのらりくらりとかわすコイツは……一体何をしに来たんだっ!!
そんな俺の気持ちが伝わったのか、クソ兄貴は俺を見上げると、口を開いた。
「お前さぁ、ウソ吐くなよ」
「は? 何のウソだよ」
「“忘れた”って言ったじゃねーかよ」
「……」
「美青ちゃんのこと」
頬杖をついたまま、俺の目をじっと見てそう言った兄貴。
「美青ちゃんのこと、まだ好きなんだろ?」
「だったら何だよ」
「いや~、別に。ただ――……」
「“ただ”?」
「あんま美青ちゃんを困らせんな」
そう言われて、またあの時の考えが頭をよぎった俺は、そのまま真っ直ぐに兄貴を見据える。

