きせき


「は~い。じゃー今からカギ渡すから、名前呼ばれたら取りに来て~」

ホテルに着いてすぐ、予定通りお兄さんが全員にカギを配る。

「次~、宮崎航太」

「……」

「返事くらいしろよ」

お兄さんに名前を呼ばれた航太は、何やら不機嫌そうで。

そんな航太に、お兄さんは慣れた様子で笑いながらカギを渡す。

航太、どうしたんだろう?

具合でも悪いのかな?

こっそりとその様子を盗み見る私の前で、眉間にしわを寄せたまま、視線を落とす航太。

本当にどうしたんだろう?

そんな私の心配をよそに、カギをもらい終えて解散になった瞬間、航太は何も言わずにカバンを転がしながら、ひとりで部屋に歩いて行った。

「お兄さん」

「ん~?」

誰もいなくなったロビー。

仕事中は“宮崎さん”、誰もいない時は“お兄さん”と、そう呼ぶ私に、間の抜けたような返事が返ってくる。

「航太、具合悪いんですか?」

「へ?」

「さっき、カギを受け取る時もおかしかったし」

「……あ~、あれね」

私とは打って変わって、何か心当たりがある様子のお兄さんは、ちょっと考えたあと、

「あいつ、ヤキモチ妬いてんだよ」

そんなよくわからない答えを口にした。

「ヤキモチ、ですか?」

「うん」

「それは何に……?」

「俺と美青ちゃん」

「……」

思いもよらないお兄さんの発言に、思考がちょっと停止する。

「……は?」

「いいね、その反応」

多分、いや、絶対に変な顔をしていたであろう私を見て、クスクスと笑ったお兄さんは、

「慣れない飛行機で疲れたのかもな。心配だったら、後で薬でも持ってあいつのとこ行ってやれば?」

「……って言っても、アイツは薬飲まないけどな」と、そんな矛盾した言葉を付け加えて、私の頭をポンポン叩いて。

「はい、これ美青ちゃんのカギ。じゃー、また後でね」

眉間にしわを寄せて、考え中だった私を放置したまま、ヒラヒラと手を振って自分の部屋に向かって歩いて行った。