「すみません。いろいろと手伝ってもらっちゃって……」
「いや、俺の仕事でもあるし。気にしないで」
アルゼンチンに向かう飛行機の中、隣の席のお兄さんは手元にあるスタッフの名簿を見ながらにっこりと笑う。
「じゃー、現地に着いたらこれの通りに部屋のカギを渡せばいいんだね」
「はい、お願いします。本当に助かります」
そう言って笑い返した私の目を、じーっと見つめたお兄さんは、
「大丈夫?」
そう尋ねてきた。
「だ、大丈夫ですよ!」
元気に言ってはみたものの、本当は全然大丈夫じゃない。
昨日の夜なんて、一睡もできなかったし。
「ふぅ~ん。そのわりには“くま”が凄いけど?」
「……っ!!」
パッと目元を隠した私を見てクスクスと笑った、多分ドSのお兄さんは、その表情を少しだけ変えると、スッと声のボリュームを落とした。
「さすがにみんながいるところではあれだけど……。もし二人きりになるようなことがあったら、昔みたいに普通にしてやって」
「……え?」
「あいつと」
そう言って、親指で指差した先には、ヘッドフォンを付けて肘を付いたまま映画を見ているのであろう航太がいて……。
「でも、」
「大丈夫。もしバレて何か言われるようであれば、俺が何とかするし」
「……」
「約束したでしょ? 俺は美青ちゃんの味方だって」
戸惑う私に、またニッコリと笑顔を向けたお兄さんは、そのまま前を向き、
「あんま美青ちゃんと喋ってると、俺が嫌われそうだからな」
よくわからない事を口にして、一人でクスクスと笑っていた。

