きせき


「それで、航太君から逃げちゃったの?」

「……うん」

航太に逢ってから初めて迎える休日に、私は例のごとく、彼女の前でしょんぼりとうなだれていた。

呆れたような視線を私に向けるのは、他でもない、あけちゃんで。

“何してんだか!!”と、お菓子を頬張る。

「だから言ったでしょう!? 仕事で会う前に、航太君に会いに行けばいいじゃんって!!」

「う~……」

「大体にしてさぁ、」

そこまでの勢いを急になくした彼女は、ほんの少し言いにくそうに言葉を続けた。

「美青の意志ではなかったとはいえ、自分をこっ酷くフッた相手に話しかけるのって、かなり勇気いると思うよ?」

「……うん」

そうなんだよ。

あの時は、どうすればいいかわからなくて、あんな態度を取っちゃったけど……。

「あれはないよね」

「ん~、ちょっとねぇ」

「はぁー……」

航太の気持ちも考えられずに、自分のことばっかりを考えて、バカみたいな態度を取った自分に、もう溜め息しか出ない。

「航太君、久々に逢ってどうだった?」

「……変わってなかった」

真っ直ぐな瞳も、少し癖っ毛の黒髪も、手の温もりだって変わっていない。

「背がまた大きくなって、ちょっと大人っぽくなってたけど……。航太は航太だったよ」

「……そっか」

「うん」

「んで、いつからアルゼンチン行くんだっけ?」

「来月の頭から~……」

そうなんだ。

もう遠征まで1週間とちょっとしかないんだ。

「次会ったら、どうしたらいいと思う?」

「私に聞かないでよ~!!」

「だよねぇ……」

テーブルに突っ伏した私の口から出るのは、やっぱり溜め息ばかり。

「まぁ、頑張ってよ」

「むぅ……」

頭をポンポンと叩くあけちゃんに、縋《すが》るような視線を送ったところで、どうしようもなく。

頭の整理が全く出来ないまま、アルゼンチンに旅立つ日はあっという間にやってきた。