きせき


長い廊下に、カツカツと自分の足音が響く。

「……っ」

落ち着け。

角を曲がったところで目に入ったトイレに駆け込んで、何度も深呼吸をした。

だけどどうしても、開いた手の平の震えが止まらない。

「も……やだっ」

声をかけられる前から、私の腕を掴むその温もりが誰のものなのか、私にはわかっていた。

あの頃と変わらない航太の温もりに――……

自分でも驚くくらい、心が震えたんだ。

本当は、もっとちゃんと話がしたかった。

昔のように笑い合うことは出来なくても、“普通の関係”で十分だから。

そう思っていたのに……。

航太のあの瞳に見つめられたら、あの時の嘘を、全部見透かされてしまいそうで、思わず視線を逸らしてしまった。

それに、私は“視線”が怖かった。

あの人達の……“協会”の人たちの視線が。

あけちゃんは、もう立場が違うんだからって言ったけど、もしまた航太から引き離されてしまったら。

そう思うと、何も言えなくなってしまったんだ。

仕事なのに、こんな気持ちを抱くのは間違っている。

それはわかっているけど、それでも私は――……

昔のように“彼女”という立場じゃなくても、航太の傍にいたいんだ。