きせき


「……は?」

人間、驚きすぎると本当に余計な言葉が出てこなくなるんだな。

言葉通り“固まった”俺に、兄貴がわかりやすく説明を始めたんだけど、

「本当に偶然だったんだ。俺も驚いた。美青ちゃん、旅行会社で働いてたんだろう?」

「……」

「偶然、うちをサポートしてくれることになった旅行会社が、美青ちゃんの会社で」

やっぱり理解できない。

だって、何だよそれ。

「向こうが出してきた担当者が、美青ちゃんだった」

ドクン。

――心臓が、痛い。

「本当に、たくさんの偶然が重なったんだ」

「……」

「航太」

静かに俺に声をかけた兄貴に、胸の痛みを抑えながら、何とか声を絞り出す。

「……あぁ」

「これはビジネスだ」

「……」

「私情を挟むな」

「……っ」

わかってる。

そんなことわかってるけど――……。

「もしまだ美青ちゃんのことが好きだって言うなら、俺は止めない。でも――……」

途切れた言葉に思わず視線を上げると、兄貴はなぜか苦しそうにその顔を歪めていて。

「“でも”? 」

「でも……もし、昔のことです美青ちゃんを憎むような気持ちがあるなら、」

「……」

「美青ちゃんには関わらないでやって欲しい」

そう言い切った兄貴の言葉に、強烈な違和感を覚えた。

――何でそんなことを、兄貴が言うんだ?

何で――……。

「兄貴、美青に何か聞いたのか?」

そう口にすれば、スッと目を逸らされて……。

一体なにを聞いたんだ?

「おいっ、兄貴!!」

つい語調を荒げた俺に、兄貴はただ一言、

「……悪い。今は何も話せない」

歯切れ悪くそう言ったきり、もう口を開くことはなかった。