きせき


「何だよ、急に」

「いいから答えろよ」

ゴクリと唾を呑みこむ音が、やけに大きく部屋に響いた気がした。

「もう……忘れた」

自分で言った言葉なのに、胸の辺りがズキリと痛む。

正確には“忘れようとしてる”だけど、そこまで説明する必要はないだろ。

「そうか」

俺の返事に、小さな溜め息を吐き出した兄貴は、その後、思いもよらない言葉を口にしたんだ。

「もうすぐ、美青ちゃんに逢うことになる」

「……は?」

――美青に、逢うことになる?

その言葉を上手く呑み込めない俺は、ただただ怪訝そうに眉を寄せることしかできなくて……。

だけどその一方で、心臓は何かを覚ったように、その鼓動を速めていく。

部屋がシンと静まり返り、

「美青ちゃんと逢うことになるぞ」

「……」

もう一度同じ言葉を繰り返した兄貴を見つめたまま、やっぱり俺は、それに反応を返すことができなかった。

言葉は聞こえてるけど、意味が全く理解できない。

「……誰が?」

「お前だよ」

何で、俺が?

「ワケわかんねぇんだけど」

「……」

また少し間を取った兄貴は、俺の目を真っ直ぐ見据えたまま、

「美青ちゃんは、ワールドカップの協会側のサポートメンバーだ」

何の感情も読み取れない口調で、そう言葉を繋げた。