きせき


どんどん速くなっていく鼓動に、息が苦しくなる。

「じょ、常務!」

「ん?」

「あの、お言葉ですが……っ!! 私、ブラジルには詳しくありませんし、他の方のほうが適任かと思うのですが」

なんでこの仕事をこんなに避けようとしているのか、自分でもよくわからなかった。

大体にして、今航太はA代表には入っていないし、今のところその候補に挙がっているという情報もない。

それなのに、まるで胸騒ぎにも似た何かが――……

私に警告をしているようだった。

「……そうか」

静かにそう言って、下を向いた常務は、納得してくれたのか少し考え込んで。

「だが、私はやっぱり君がいいと思うんだ。君のアメリカでの仕事ぶりは、こちらにも報告が入っている。“臨機応変に対応できる、いいスタッフだ”とね」

「……」

「まだ開催まで1年以上ある。その間にブラジルへの下見もお願いするから、何とかなるだろう」

だけどやっぱり、私の期待とはかけ離れた言葉を口にした。

「それに、本番前の海外遠征のコーディネートも、全てお願いしたいとクライアントの協会側に言われていてね」

「……え?」

「もう少ししたら、そちらとの会議にも参加してもらう事になるだろう」

当然、私の私的な感情に気付くはずのない常務は、

「うん。やはり君でいこう! よろしく頼むよ」

にこやかにそう言って、私に大量の資料を手渡した。