「ふぅー……。よし、10時1分前!」
あの日、アメリカ研修の打診を受けた時以来の常務室へのお呼び出しに、私はやや緊張しながらその扉をノックした。
「佐々木です、失礼します」
「おー、佐々木くん。呼び出して悪いね」
「いえ! ちょうど仕事もひと段落しましたので……」
そう言って、常務の様子を窺う。
まさか、またアメリカだの異国に行けって言うんじゃないでしょうね!!
こちとら、日本に帰国したばっかりなのですが。
心の中でひとり悪態をつきながらも、社会人スマイルで常務の言葉を待つ。
「実は佐々木くんに、お願いしたい仕事があってねぇ」
そんな私の目の前で、研修の時と同じようなセリフを吐いた彼を、思わず凝視してしまう。
“やっぱり……また異国でしょうか?”
そんな疑問が頭をよぎる。
「はい、何でしょうか?」
「まだ少し先のことなんだが――……」
どうやら、すぐに飛び立てということではないらしい。
「君は、サッカーは好きかい?」
ドクン。
「サッカー……ですか?」
何の脈絡もない、突然の常務の言葉。
それなのに、頭に浮かぶのは……
やっぱり、航太のこと。
「あぁ、そうだ! サッカーだよ」
「好きでも、嫌いでもない……という感じでしょうか」
質問の意図も分からないのに、なぜか曖昧な返事をしてしまうのは、未だに航太のことを引きずっているからで。

