きせき


「あの日ちょうど、上の連中に育成の何かで話があるって言われてさぁ……。ミーティングルーム行ったんだ」

「……」

「そしたら何かすげーバタついてて。その場にいた若いスタッフに声かけたら、“宮崎さんの彼女が、ファンに階段から突き落とされたらしい”って」

“かん口令が敷かれる前だったんだろうな”

そう言って、俺を見上げた。

視線を逸らさず真っ直ぐに、まるで俺の中の何かを探るような視線。

それに、少しの戸惑いを覚える。

「それから少しして、お前の様子がおかしくなった」

ドクン……。

「プレーはきちんとしてる。でも、何か様子が違ったんだよ。ただ淡々とサッカーをしてるって感じでさ」

――この人は、気付いているんだ。

「何でかなぁと思ってたらさ、ある時、ある事に気付いたんだよ」

「ある……事?」

「あぁ。お前の様子がおかしくなった辺りから、スタンドで彼女を見かけなくなった」

「――……っ」

ドクン。

何だよ……。

もう昔のことだろう。

こんなことで動揺するなよ。

――あんな女のことでも、動揺するな。

「あの子とどうなったのかは俺にはわからないけど、あれはお前のせいじゃない」

俯く俺に、後藤さんは柔らかい声でそう告げて、小さく笑った。

だけど、動揺を隠しきれない俺の呼吸はわずかに震えていて。