きせき


「実はね、仕事でアメリカに行かないかって言われてる」
「アメリカ?」
「うん。研修で、一年間」
「……」

今、きっと私の気持ちを色々考えてくれている航太の体温は、やっぱりすごく心地よくて……。

「でも、行かない」
「……え?」

「行かないつもり」

やっぱり離れたくないって、そう思う。

「なんで?」
「“なんで”って……」

「もしかして、俺?」
「違うよ」

「美青、こっち見て」

温かい腕の中から私を解放した航太は、正面に座り直して、真っ直ぐに目を見つめながらゆっくりと口を開く。

「美青。俺は、美青の邪魔になりたくない」
「こう……た?」

「美青がやりたいことなら、俺にかまわずアメリカに行くべきだよ?」
「……」

「俺達は、そんなんじゃ終わらない。そうだろ? 美青」

私を覗き込むようにして首を傾げた航太は、もう一度伸ばした腕で私をギューッと抱きしめて、

「それを踏まえて、しっかり考えるように!!」

まるで、大人が子供に言い聞かせるようなセリフを口にして笑った。

「航太は……私より大人だね」
「今更!? ずっとそうだと思ってたけど?」

そう言って、“くくくっ”と笑った航太。

「もー、バカにして!!」

ベシッとその腕を叩いたあと、オズオズと大人航太を見上げて。

「でもね、私は航太の傍にいたい。幼稚だって言われても、社会人失格だって言われても、私は航太と一緒がいいの!」
「……」

「だから、行かない」
「……」

「ダメ……かな?」

なにも言わない航太に、思わず不安になって視線を落としてしまった。

「バーカ」

だけど、頭上から落とされた航太の声は、ちょっとだけ嬉しそうで。

「……バカじゃないし」

やっぱり“くくくっ”と笑ったあと、不貞腐れる私の唇に、言葉とは裏腹な優しいキスを落とした。